マジカルデイズ小説化プロジェクトが女性向けゲームアプリ市場にもたらす影響
『マジカルデイズ-TBP-(以下マジカルデイズ)』というゲームをご存知でしょうか。
2016年12月7日にリリースされ、2019年1月25日にサービス終了したゲームアプリです。
サービス終了理由は「運営会社の事業継続が困難になったことによるサービス提供停止」とのことでした。
そしてサービス終了からおよそ9ヶ月経った先日、マジカルデイズの公式ツイッターに動きがありました。
【運営からのお知らせ】
— 【公式】マジカルデイズ-TBP- (@magi_day) October 17, 2019
マジカルデイズにて新たなプロジェクトが始動ーー?!
詳細は10/21(月)20時に公開!お楽しみに!#マジカルデイズ
【運営からのお知らせ②】
— 【公式】マジカルデイズ-TBP- (@magi_day) October 21, 2019
この度、新たな形式でのプロジェクト展開をファンの皆さまと実現させたくクラウドファンディングプラットフォームMakuakeにて≪マジカルデイズ本編完結!小説化プロジェクト!≫を10月24日(木)12時より立ち上げることとなりました!#マジカルデイズ pic.twitter.com/AAdqJQI1aT
突然、作品完結に向けたクラウドファンディングプロジェクトが発表されたのです。
この発表ツイートは、サービス終了時と変わらぬ勢いで瞬く間に拡散されました。
そして、10月24日。
告知通り12時から始まったマジカルデイズ小説化プロジェクトは、開始からわずか4時間半で第一目標金額の300万円を達成したのです。
≪マジカルデイズ本編完結!小説化プロジェクト!≫にて、一つ目の目標金額300万円を達成しました!『マジカルデイズ』メインストーリー第一部小説化の実施が決定となります!!!
— 【公式】マジカルデイズ-TBP- (@magi_day) October 24, 2019
プロジェクトページはコチラ→https://t.co/dQNzLjw15x#マジカルデイズ #マジデ小説化 #Makuake
皆さんはこの結果についてどのような感想を抱かれますでしょうか。
ぼくは、こう思いました。
この成功は逆にゲームアプリ市場の寿命を縮めるのではないだろうか。
もちろんそんなことは望んでいません。
でも、一度芽生えた悲観的な考えは中々頭から離れません。被害妄想が過ぎるオタクなので。
とりあえず誰かに聞いてほしい。
そして「そんなことはない。お前は間違ってるから安心して一生ゲームアプリで遊んでろ。」と将来の安泰を約束してほしい。
今回は、そんな気持ちで書いていきたいと思います。
初めに申し上げますが、本記事は特定の作品を批判するものではございません。
予めご了承頂きますようお願い致します。
クラウドファンディングといふもの
そもそも、マジカルデイズ小説化プロジェクトはなぜ目標金額を達成できたのでしょうか。
マジカルデイズ公式Twitterのフォロワー数は3.3万人(2019/11/2現在)。
クラウドファンディング立ち上げツイートのRT数はおよそ1700だったので、少なくとも1/20以上はアクティブフォロワーだと考えられます。
仮に1/20だったとしても、第一目標金額の300万円を達成するには一人あたり2000円。
高額支援も考慮すると、現実的なラインと言えるでしょう。
しかし、実際に300万を達成した時の支援者数は241人でした。
想定より支援者数が少なかった、というわけではありません。
前述の通りこの企画は、平日の12時に開始して4時間半後に目標を達成しています。
つまり、支援者一人当たりの予算が発案者の想定を大きく上回り、支援者が出そろう間もなく圧倒的なスピードで目標額を達成したのです。
支援者の予算が発案者の想定を上回ったということは、この企画のどこかに発案者が考えていた以上の魅力があったということになります。
小説という形式が魅力的だったのでしょうか。
リターンの内容が魅力的だったのでしょうか。
今更そんなミクロな話ではないはずです。
というわけでマクロな視点で考えます。
ゲームアプリとクラウドファンディングの最たる違いはなんでしょうか。
それは、ビジネスモデルの信頼度です。
信頼の価値
現在のゲームアプリを支える主たるビジネスモデルは、ガチャへの課金です。
ガチャは、お金を払うと予め設定されている確率でランダムにキャラクターやアイテムを入手できるという販売モデルです。
この時、お金と商品(データ)の交換には信頼関係がありません。
いくら払えば何を入手できるのかわからないのです。
クラウドファンディングはどうでしょうか。
クラウドファンディングは、もともとプロジェクト実行のための資金調達の仕組みです。
初めから『いくらお金があれば』『何ができる』というお金と商品の交換が明示的なのです。
ここには非常に高い信頼性があります。
今や世界には非常多くのモノや情報が溢れ、これまで以上に『信頼性』が重要視される時代となりました。
なに当たり前のことを言ってるんだと思われるかもしれません。
ですが、この当たり前がまかり通っていないのがゲームアプリ市場です。
ゲームアプリユーザにとって、目的の商品の入手手段が明確であるという信頼性は貴重なのです。
つまり今回のプロジェクトが成功した理由は、『ゲームアプリユーザである支援者が商品に対する信頼性に魅力を感じたから』なのではないでしょうか。
閑話休題①:商品に対する信頼性
『ヒプノシスマイク』というプロジェクトをご存知かと思います。
2017年に突如として登場した男性声優によるラッププロジェクトは、各所で大きな話題を呼びました。
ぼくは、ヒプノシスマイクが爆発的に広まった理由にもこの『商品に対する信頼性』が関係していると思っています。
プロジェクト始動当初、CDとパッケージイラストのみの供給は少々控えめに感じました。
しかし様々な作品が初動から各方面にマルチ展開することが多い昨今、全ての情報を確実に追うことができるという『信頼性』に惹かれた方も多かったのではないでしょうか。
もちろん、作品のクオリティの高さがあってこその結果だとは思います。
現在ヒプノシスマイクは、ゲーム化を控えているとのことです。
今回の考察を踏まえて、今後プロジェクトがどのように展開されていくのか非常に楽しみです。
成功がもたらす影響
話を戻します。
マジカルデイズが本プロジェクトで残した功績は偉大です。
『支援者がゲームアプリユーザだった』から成功した。
つまり、ある程度の知名度があるゲームアプリであれば同様のプロジェクトは容易に成功するでしょう。
しかし、このことこそがぼくの被害妄想をかきたてているのです。
被害妄想その1:新たなサービス終了方法の確立
サービス終了間際のゲームアプリ運営が意識することは、『プロジェクトとしての存続』と『赤字削減』です。
前者については、オフライン版のリリースや設定資料集の発売などの一次対応が増えています。
後者については復刻ガチャの乱発などが実施されることが多いですが、適切な解答がないのが現状だと思います。
クラウドファンディングによる買い切りコンテンツの販売は、このどちらの要件にも対応することができます。
運営とユーザ双方の負担が少ない解決方法であるため、今後サービス終了時の対応として採用されることも増えるでしょう。
唯一の被害者は、ゲームアプリが好きなユーザです。
今回のクラウドファンディングは、『ゲームアプリを別の形式に変換することでプロジェクトを継続させる方法』です。
これは、裏を返せばプロジェクト継続のためにゲームアプリを運営する理由が一つ減るということです。
もちろん、プロジェクトが継続することは大変嬉しいことです。
しかし、ゲームアプリに愛着があるユーザがたくさんいることも事実なのです。
ゲームアプリの命と引き換えにプロジェクトの寿命を延ばすクラウドファンディング。
この延命措置に諸手を挙げて喜べないのは、果たしてぼくだけなのでしょうか。
被害妄想その2:信頼の軽視
繰り返しになりますが、今回のクラウドファンディングはゲームアプリを別の形式に変換することでプロジェクトを継続させる方法です。
しかしこの方法が推奨されればされるほど、「サービス終了する場合はクラウドファンディングすればいい」という意識の運営が必ず出てきます。
ひどい場合は「最後にクラウドファンディングで儲けよう」くらい考えるかもしれません。
これは、ゲームアプリ市場に限った話ではありません。
流行ると都合のいいことしか見えなくなるという世の常です。
運営の意識は、リターンや目標金額として可視化されます。
誠実ではないクラウドファンディングは、必ずユーザに見抜かれるでしょう。
前述の通り、クラウドファンディングで最も重要なのは信頼性です。
信頼を得られなかったプロジェクトは、アプリをサービス終了した挙げ句クラウドファンディングも達成できずに消滅するという最悪の結末を迎えることになるのです。
閑話休題②:クラウドファンディングでゲームアプリ運営は可能か
今までゲームアプリのサービス終了を前提に話をしていましたが、ゲームアプリの運営費をクラウドファンディングで回収することは不可能なのでしょうか。
ゲームアプリは、運営を継続している限りランニングコストがかかり続けます。
集金方法として不確定でラグもあるクラウドファンディングを採用するのは難しいでしょう。
あえてゲームアプリに落とし込むなら、『特定のイベントに対して出資を募り集まれば開催する(集まらなかった場合は見送り)』とかでしょうか。
開発期間などを考えるとあまり現実的ではないですが。
サービス終了後にある程度高機能なオフライン版を開発する、とかならできそうです。
サービス終了後だけど。
ゲームの運営と並行して、書籍化とかグッズ展開などゲーム外のコンテンツをクラウドファンディングで実施するのは良いかもしれませんね。
最後に
悲観的な書き方をしてきましたが、今回のマジカルデイズの対応は本当に素晴らしいと思っています。
現在のゲームアプリ市場は、運営もユーザもガチャに取り憑かれています。
ガチャで回収するしかない。
ガチャで貢献するしかない。
マジカルデイズは、そんな疲弊しきった世界に新たなプロジェクト継続の形を顕現させたのです。
長期的な視点で見れば、やはりぼくはまだ懐疑的です。
しかし、現在のゲームアプリ市場に『余裕』が必要であることもまた事実です。
プロジェクト終了に対する恐怖が和らぎ運営にもユーザにも余裕が生まれれば、また新しいアプローチが見えてくるかもしれません。
クラウドファンディングへの参入は吉か凶か。
ゲームアプリ市場の更なる発展を願うばかりです。
ハロウィンも終わり、いよいよ冬らしいイベントが始まる頃でしょうか。
月初なので、とりあえずいろんなゲームでガチャを引こうと思います。